みんなの弁護士 > 事件の現場~私はこう解決した!~ > case01 「財産はほどんど貰えず、遺留分の減殺請求もできない…遺産分割で揉めている依頼人を救った、銀行との交渉術とは?」

財産はほどんど貰えず、遺留分の減殺請求もできない…遺産分割で揉めている依頼人を救った、銀行との交渉術とは?

遺言はなく話し合いでも折り合いがつかないのであれば、
やはり裁判をするしかないのでは?

しかし、それでは数年かかる場合もあります。そこで今回一つのポイントとなったのは、財産の大部分が預金だったということです。判例に従えば、由美子さんはその預金から自分の相続分を払い戻してもらう権利があるはずですが、実務上は金融機関もリスク回避を考えます。銀行は相続人同士の争いに巻き込まれたくないため、預金の払い戻しの際に相続人全員の同意を確認するのです。そのため、相続人全員が共同で払い戻し請求をしなければならず、それぞれの印鑑証明書や住民票、さらに戸籍謄本まで必要となります。このように預金の引き出しには様々な手間がかかるのですが、実は半年もあれば自分の相続分の預金を受け取れる方法があるのです。

どのような方法が

まず、預金の総額を把握する必要があります。我々弁護士は弁護士法第23条によって照会をかけることができるので、父親が生前に取引をしていた全ての銀行口座に照会をかけ、預金の残高を確認しました。次に銀行に『○月×日までに由美子さんの口座に相続分●●円を入金すること』という内容証明を送ります。しかし、ほとんどの銀行は預金を払い戻してはくれません。その場合は速やかに訴状を用意して、銀行を訴えれば良いのです。そうすれば、第一回目の期日までに銀行は負けを認めて払い戻しに応じてくれます。由美子さんの場合も、訴えから2カ月で預金を払い戻してもらうことができました。

思ったより簡単に払い戻しに応じてもらえるんですね。

けれどもこの方法を知らなければまさか銀行を訴えようとは思わないですよね。
しかも、実は弁護士でも提訴しない先生の方が多いのです。実際に訴えまで起こす弁護士は、全体の1割にも満たないのではないでしょうか。
しかし、いくら銀行に足繁く通っても預金を払い戻してはもらえません。今回のような場合は、銀行相手に訴えることが一番確実な方法です。

訴えを起こすことはいつでも可能とのこと。
遺産分割協議が長引きそうな場合は、検討されてみてはいかがでしょうか?

この裁判のここがポイント!
  • ■財産の中には遺産分割の対象にならないものもあります。
  • ■『争続』で訴える相手、他の相続人だけだとは限りません。
  • ■スピーディーな解決には弁護士選びも重要。

【専門用語】

弁護士法第23条の2(報告の請求)

「弁護士は、受任している事件について、所属弁護士会に対し、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることを申し出ることができる。」

訴状

裁判所に民事訴訟を提起するにあたって、原告が裁判所に提出する訴えの内容について述べた文書。

期日

訴訟法においては、裁判所、当事者などの訴訟関係人が、訴訟を起こすために指定された時間をいう。裁判長が指定した日時から開始されるが、民事訴訟法では期日の変更や続行、延期の要件が厳重に定められている。

畑中鐡丸弁護士
  • 弁護士:畑中鐡丸
  • 東京弁護士会所属