みんなの弁護士 > 事件の現場~私はこう解決した!~ > case03 「円安のリスクヘッジ―のはずが大損に!」

財産はほどんど貰えず、遺留分の減殺請求もできない…遺産分割で揉めている依頼人を救った、銀行との交渉術とは?
畑中鐡丸弁護士

歴史的な円高が続いていた昨今、為替デリバティブで 多額の損害を被った企業が多かったと聞きました。

2006~2008年頃、大量の為替デリバティブが販売されました。
当時は1ドル=120円という時代です。そして日本は大幅な財政赤字。銀行は『このまま日本の財政赤字が進んでいくと超円安になります。』と説明し、そのリスクヘッジとして為替デリバティブを勧めていました。

そもそも、為替デリバティブとはどんなものですか?

事例でご説明しましょう。
ご相談にいらしたのは、食品の輸入販売会社を経営している橋本さん。銀行の担当者に『これから必ず円安になります』と言われました。円安になれば当然輸入価格は上がります。そのリスクヘッジとして、『向こう5年間1ドル=130円で毎月10万ドル分交換する』という為替デリバティブを勧められました。仮に1ドル=150円の円安になると1,500万円必要になりますが、この為替デリバティブを購入していれば1,300万円で済みます。
つまり会社側は毎月200万円の利益を得られるということです。

イメージ

非常に魅力的な商品に見えますね。

ところがおいしい話には裏があるもの。
この為替デリバティブ、購入した企業に大きな問題をもたらしたのです。

どのような問題が起きたのですか?

2008年の9月に発生したリーマンショックにより、日本は歴史的な円高に突入しました。 しかし1ドル70円台になっても、橋本さんは130円 で10万ドル分交換しなくてはならず、毎月500万円以上の損失を被ります。
本来であれば円高は輸入企業にとって追い風となるはずですが、大きな負担となりました。

それならば契約を解除して、
通常の為替交換をすれば良いのでは?

それがこの商品の恐ろしいところです。
契約期間の5年間は解約をすることができず、もし途中で解約をすれば億単位の違約金を支払わなくてはなりません。また、レシオ特約と言って円高になった時には2~3倍のドル交換を義務付けられています。つまり、今までは1ドル=130円で10万ドル分交換していましたが、1ドル=90円を割り込んだら20万ドル分交換することになり、企業側は不要な交換をさせられてしまうのです。

円高ではことごとく企業が損をする商品なんですね。

円安でも企業側が大きな利益を得ることはできません。ノックアウト特約というものが定められているからです。1ドル=130円で交換する契約の場合、1ドル=170円などになれば銀行は大きな損失を被ります。そのため、1ドル=150円を超えた場合、銀行は強制的に取引を中止することができるように定めていました。
よって、銀行側はどんなに円安が進んでも大きな負債を負わずに済むのです。

解約をするのも地獄、しないのも地獄・・・という感じですね。

橋本さんは、本業では黒字であるにも関わらず、為替デリバティブのために毎月数百万円の損失を出していました。解約したくても多額の違約金が払えないため、どうにもならずに当事務所を訪ねて来られたのです。

【専門用語】

為替デリバティブ取引

5~10年という長期間に渡り、毎月または3ヵ月毎など定期的に外貨(主に米ドル)を購入する外国為替予約取引のこと。一度決めた行使価格はその期間一定であり、途中解約をすると莫大な違約金が発生する。通過オプション、クーポンスワップ、為替予約などいくつかの形式があるが、取引内容はほとんど同じで問題の特約がついているものも多い。

リーマンショック

2008年9月15日、アメリカの大手投資銀行であるリーマン・ブラザーズが経営破綻をしたことを引き金に、世界的な金融危機及び世界同時不況が発生したこと。

レシオ特約

円高になった時に2~3倍のドルとの交換を義務付ける特約。購入者は円安時の利益と比較して、2倍、3倍のリスクを負担させられる。

ノックアウト特約

為替レートがあらかじめ取り決めた価格(ノックアウト価格)に達した場合に契約が終了する特約。円安になりすぎた場合は銀行が損をするため、強制的に取引を終了することができる。