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円安のリスクヘッジのはずが大損に!

どのように解決したのでしょう?

今回ポイントとなるのは、金融ADRを活用することです。

どのような方法が?

金融ADRとは、全国銀行協会などが運営する金融取引に関する紛争を裁判以外で解決する、言わば民間の裁判所のような機関です。通常の裁判よりも短時間・低コストで解決することができます。

どのように進めていけばいいのでしょうか?

よく、『銀行側から十分な説明がなかった』『商品のことを理解していなかった』と主張される方がいますが、これは必ずしも得策とは言えません。金融商品取引法によって金融機関は顧客が理解できるように説明する義務が課されていますが、この説明義務違反に注力していると、違約金を少し減額してもらったというだけで終わってしまうことが多いのです。

畑中鐡丸弁護士

では、どのような主張をしていけばいいのでしょうか?

『本来この商品を買う必要がなかった』ということを主張するのです。
適合性原則』と言って、金融機関は顧客に対して、その資産状況や意向に沿って商品を勧める義務を負います。
例えば、毎月の輸入総額が15万ドルであるにも関わらず10万ドル分も円安のリスクヘッジをしていたら、少し円高に振れただけで大きな損失を被る可能性がありますよね?その場合、10万ドル分も交換する必要はないため、銀行側が顧客の取引状況を見誤ったと言えるのです。
最高裁でも、『顧客の意向と実情に反して明らかに過大な危険を伴う取引を積極的に勧誘することは適合性原則違反として違法』という判決が出ています(平成17年7月14日判決)。
今回のケースでも、途中解約には1億円の違約金が課せられていましたが、ほぼ全額免除で和解が成立しました。

銀行がその申し立てを拒否することはないのですか?

拒否した場合、銀行は訴訟を起こさなくてはなりません。しかし、金融ADRで解約金の免除を認める判決が出た場合、裁判でそれをひっくり返されることはまずないでしょう。
金融ADRに法的拘束力はありませんが、銀行は事実上拒否をすることはほとんど無く、違約金の免責で和解が成立する可能性は高いと言えます。

金融ADRを活用するうえで、注意すべき点はありますか?

裁判では最大3回判決が出ますが、金融ADRの判断は1回のみでその期間も3カ月と短いものです。短期間で、その1回のチャンスに最大限自分の主張をするための準備をすることが重要です。
また、金融ADR自体は自分でも訴えることができますが、たった1回のチャンスを有効に活用するためには代理人を立てることも大切です。それによって結果に数千万の差が生じる場合もありますから。また、代理人は弁護士しかなることはできませんが、弁護士の中でも為替デリバティブのことを理解している方は数%しかいないでしょう。
必ず金融取引について精通した弁護士に相談するようにしてください。今回の橋本さんも、もともとの顧問弁護士に相談したところ『金融取引はお手上げ』ということで、当事務所にご相談いただきました。

為替デリバティブに苦しんでいる企業は、全国で1万9000社に上ると言われています。
現状から抜け出すために、金融ADRという手段を検討してはいかがでしょうか。

この裁判のここがポイント!
  • ■訴訟以外にもトラブルの解決手段はあるのです。
  • ■主張ポイントは『説明義務違反』ではなく『適合性原則違反』
  • ■複雑な金融商品は精通した弁護士に相談を!

【専門用語】

金融ADR

金融トラブルを裁判所以外の機関で解決する制度。平成21年の金融商品取引法等改正により創設。銀行・証券会社・保険会社等が紛争解決機関となり、中立・公平な立場から簡易かつ迅速な解決手段を提供する。

説明義務違反(金融取引法第37条の3)

金融業者は、その金融商品について顧客が理解できるように正確かつ具体的に説明する義務を負う。デリバティブ商品のような複雑な仕組みの金融商品の場合、より高度な説明義務が課せられている。

適合性原則(金融取引法第40条)

金融業者は、金融商品の性質に照らして顧客が十分な知識、情報収集・分析、判断能力、経験、財産を有しているかを調査し、これらが十分でない場合には金融商品の購入の勧誘自体をしてはならないという原則。

最高裁平成17年7月14日判決

「証券会社の担当者が、顧客の意向と実情に反して、明らかに過大な危険性を伴う取引を積極的に勧誘するなど、適合性の原則から著しく逸脱した証券取引の勧誘をしてこれを行わせたときは、当該行為は不法行為上も違法となると解するのが相当である」として、証券取引に関する適合性原則について判示している。

畑中鐡丸弁護士
  • 弁護士:畑中鐡丸
  • 東京弁護士会所属